
自宅の床が傾いているように感じる、ドアの開閉がスムーズにいかない、壁にひび割れ…。もしかすると、それは地盤沈下のサインかもしれません。地盤沈下は、生活基盤である家を蝕む静かな危険です。この現象は、建物の安全性を脅かすだけでなく、居住者の健康や資産価値にも深刻な影響を及ぼします。しかし、適切な知識と対策により、地盤沈下を未然に防いだり、被害を最小限に抑えたりすることが可能です。
今回は長崎・佐賀・福岡など九州を中心に地盤調査・改良を行うタムラクレーンが、地盤沈下のメカニズムから具体的な被害、対策工法など専門家の視点から徹底的に解説します。
地盤沈下とは?家の傾きにつながるメカニズムを解説

地盤沈下とは、広範囲の地面が時間とともに沈んでいく現象を指します。これは、地下水の過剰な汲み上げや、地下の土壌層の変化などが主な原因で発生します。しかし、家屋の傾きに直結するのは「不同沈下(ふどうちんか)」と呼ばれる現象です。不同沈下とは、建物の基礎が均一ではなく、部分的に沈下することによって発生する傾きのことを指します。
建物の基礎が全体的に同じ速度で沈む場合は、建物自体が傾くことは少なく、構造への影響は比較的限定的です。しかし、不同沈下の場合、基礎の一部分だけが沈むため、建物にねじれや歪みが生じます。たとえば、家の四隅のうち一角だけが大きく沈んでしまうと、建物全体がその一点を支点に傾き始めます。この傾きが進行すると、構造材に過度な負担がかかり、壁にひび割れが入ったり、ドアや窓の開閉に支障が出たりといった被害へとつながります。
傾きの危険度の目安:
- 3/1000(1000分の3): 構造的な安全性が問題視され始める
- 6/1000(1000分の6): 専門家による対策が必要なレベル
- 実感として: 3m幅の部屋で18mmの高低差
地盤沈下と不同沈下は密接に関連しており、特に不同沈下は家の傾きという直接的な被害の根本原因となるため、関連性を正しく理解しましょう。
地盤沈下が家を傾かせる主な原因
地盤沈下の原因は「自然要因」と「人為的要因」の二つに分けられます。
自然要因
自然要因による地盤沈下は、主にその地域の地質や気候条件に由来します。
| 要因 | |
|---|---|
| 軟弱地盤 | 粘土質や腐植土が堆積した地盤は、水分を多く含み、時間とともに圧縮されて沈下しやすい特性があります。特に、以前沼地や水田だった場所は注意が必要です。 |
| 地下水位の低下 | 地下水位が長期間にわたって低下すると、土壌中の水分が失われ、地盤が収縮し、沈下を引き起こします。 |
| 地震や 液状化 | 規模な地震が発生すると、特に砂質の飽和地盤では「液状化現象」が発生することがあります。東日本大震災では、都市部などで大規模な液状化が発生し、多くの住宅が傾く被害を受けました。 |
人為的要因
人為的要因は、人間の活動によって地盤の安定性が損なわれることで発生します。自然要因と同様に、長期的に見て家の傾きという深刻な問題を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。
| 盛土の 締め固め不足 | 宅地造成などで盛土を行った際に、土が十分に締め固められていないと、時間とともに土が圧縮され、沈下が発生します。 |
| 地下構造物の 建設 | 宅地造成などで盛土を行った際に、土が十分に締め固められていないと、時間とともに土が圧縮され、沈下が発生します。 |
| 近隣の 建設工事 | 隣接する土地での大規模な建設工事が、地盤のバランスを崩し、間接的に地盤沈下を引き起こすこともあります。 |
家の傾きが示す地盤沈下の危険なサイン
地盤沈下によって家が傾いているかどうかを判断するためには、日々の生活の中で見過ごしがちな小さな変化に気づくことが重要です。地盤沈下を早期に発見するためには、以下のサインに注意が必要です。
- ドアや窓の開閉がスムーズにいかない:扉が擦れたり、勝手に開いたりする
- 壁や基礎にひび割れが入る:特に斜めや階段状のひび割れは要注意
- 床が傾いているように感じる:ボールが転がる、歩くと違和感がある
- 柱や梁に隙間が生じる:以前はなかった隙間が構造材に発生
- 外構部分にひび割れや段差:犬走りや玄関ポーチに異常が見られる
これらのサインを見つけたら、「気のせいかな?」と自己判断せずに、専門の業者に相談し、地盤調査を依頼することが重要です。
地盤沈下が引き起こす被害

地盤沈下は単に家が傾くだけでなく、その影響は建物の構造から居住者の健康、さらには資産価値にまでおよびます。放置すればするほど深刻化し、取り返しのつかない事態を招く可能性があります。
建物構造への影響と耐震性の低下
地盤沈下、特に不同沈下が発生すると、建物全体に不均一な力が加わり、構造体に深刻な影響を及ぼします。建物の基礎部分に大きな負荷がかかり、基礎に亀裂が入ったり、破損したりします。続いて、基礎の歪みが柱や梁などの主要な構造材へと伝わり、建物の骨格自体に歪みが生じます。
さらに深刻な問題は、耐震性の著しい低下です。地盤沈下によって建物が歪むと、本来備わっていた耐震性能が大きく損なわれます。設計上は震度6強の地震に耐えられるとされた建物でも、地盤沈下で基礎や柱に亀裂が入っている場合、それよりも小さな揺れで倒壊するリスクが高まります。
資産価値が下がり、修復費用も高額
地盤沈下によって傾いた家は、市場での資産価値が著しく低下します。築年数が比較的浅く、本来であれば高値がつくはずの住宅でも、地盤沈下による傾きが発覚した途端に、市場価格の半額以下に評価されることもあります。
地盤沈下を修復するための費用は、一般的に数百万円から、大規模なものになると2,000万円を超えることも珍しくありません。
修復期間中は仮住まいが必要になることも多く、その家賃や引っ越し費用も別途発生します。そのため、早期発見と適切な対策が、経済的な損失を最小限に抑える上できわめて重要です。
居住者の健康被害
人の身体は、わずかな傾きでも大きなストレスを受けます。目に見える傾きのある環境で長時間過ごすと、平衡感覚に異常が生じ、めまいや吐き気、頭痛など自律神経系の不調を引き起こすことがあります。また、傾いた床や階段は、つまずきや転倒のリスクを高める要因となります。
さらに、住み慣れた家が傾いているという事実そのものが、精神的ストレスを増大させます。「いつ倒壊するかもしれない」という不安や恐怖は、居住者の心の健康を損なう大きな原因となり得ます。
地盤沈下を防ぐには地盤調査と改良が重要
地盤沈下の被害を防ぐためには、まず地盤調査が欠かせません。専門家による調査を実施することで、地盤の状態を正確に把握し、事前に最適な対策を立てることができます。地盤が悪い場合は地盤沈下を防ぐための対策を適切に行う必要があります。具体的な工法について、それぞれの特徴をご紹介します。
地盤調査

地盤調査を建築計画に沿って実施するにあたり、建築物に合った調査方法を適正に実施する必要があります。主な調査方法を挙げます。
木造2階建て住宅などではスウェーデン式サウンディング試験が最適です。
鉄骨や鉄筋コンクリート造の建築物には、ボーリング調査。
擁壁やボックスカルバートなどの構造物には、平板載荷試験。
このように、調査対象物に適した調査方法を選定、実施する事が大切です。
地盤改良
地盤沈下を未然に防ぐ方法として、地盤改良が一般的に実施されています。地場改良にも様々な種類があり、その地盤調査のデータをよく分析して検討する必要があります。土質や地盤の深度ごとの支持力、地下水の水位や近隣建物や構造物との位置関係など、様々な条件をしっかりと確認し、効果のある工事方法を選択しましょう。主に、地盤を固化させたり、支持地盤へ杭を打ったり、周囲地盤との複合的な力を利用したりする方法が一般的ですが、近年とても多くの技術が開発されているため、専門家のアドバイスが得られると良いです。

地盤沈下してしまったら・・・
もし万が一、地盤沈下してしまった場合、沈下した建築物を修正するという選択肢が発生します。以下にその手段をいくつか紹介します。
薬液注入
薬液注入工法は、地盤に特殊な薬液を注入し、土粒子と反応させて固化・強化する方法です。薬液が地盤の隙間に浸透し、固まることで地盤全体の強度と安定性を高めます。液状化対策として非常に有効であり、基礎下に生じた空洞を充填する目的にも利用されます。たとえば、地震による液状化が懸念される地域や、狭い敷地内で迅速に地盤を強化したい場合に適しています。
土台上げ
土台上げ工法は、ジャッキやその他の装置を用いて、建物の傾いている部分を持ち上げ、その隙間に新しい基礎材や調整材(スペーサーなど)を挿入して、建物を水平に戻す工法です。建物の下に直接手を加えるため、傾きが比較的軽微な場合や、基礎自体に大きな損傷がない場合に効果的です。
その他にも、地盤沈下で家が傾いてしまった場合の対策方法はありますが、これらの工事は既存の建築物を完全に元通りには出来ませんし、高いコストや時間もかかってしまいます。やはり、建築前の段階でそういったリスクを回避するためにも、地盤調査と地盤改良がとても重要になってきます。
工法選択のポイント
地盤沈下対策の工法は、それぞれ特性や適応条件が異なります。どの工法があなたの家と地盤の状況に最適なのかは、専門家による詳細な地盤調査と診断なしには判断できません。安易な自己判断は避け、必ず専門業者からそれぞれの工法についてメリット・デメリットを十分に説明してもらうことが、後悔のない選択をするための鍵となります。
その他地盤沈下でよくある質問
傾きの程度や建物の損傷具合によって安全度は大きく異なりますが、基本的には専門家による診断が不可欠です。「大丈夫だろう」と安易に自己判断するのは非常に危険です。工事中の生活については、軽微な工事であれば在宅のまま生活できることもありますが、大規模な工事では仮住まいへの引っ越しが必要となるケースがほとんどです。
適切な対策を講じることで、再発リスクを大幅に低減することは可能です。専門家と連携し、継続的な管理を行うことが再発防止の鍵となります。
地盤沈下対策は専門家による早めの対応が重要
地盤沈下は、建物だけでなく、ご家族の安全や大切な資産にも深刻な影響を及ぼす問題です。安全と安心を守るためには、この静かな危険に対して積極的かつ早めに専門家と連携し、対応することが重要です。タムラクレーンでは、長崎・佐賀・福岡をはじめ九州全域で、地盤沈下を防ぐための調査から地盤改良までをトータルでサポートしています。「もしかして地盤沈下かもしれない」と感じられた際には、お気軽にご相談ください。